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2006-09-22 (Fri) [長年日記]

#1 「六次の隔たり」の誤解

ポイント:SNSでよく引き合いに出される「世界中のどんな人も、6人の知り合いを介して繋がっている」という説には、根拠がない。

以下がWikipediaを起点に追跡してみた結果。

GREEというネーミングは、1960年代後半に提唱された社会学の「Six Degrees of Separation」理論の一部から取ったものです。これは「6次の隔たり」とも呼ばれ、世界中の人間は6次の友達関係を通じて全て繋がっているとする考え方のことです。(強調はyucoによる)

GREEに限らず、SNSの解説にありがちな文章だが、これは間違っている、というか証明されていない。

ミルグラムは実験結果を示した論文『The small world problem』(1967年)で、“平均5.5人が仲介によって手紙が届いた”ことを報告したが、“世界中の人々が6人(5人の仲介者)でつながっている”というような主張はしていない。

というのは、結局届かなかった手紙が多かったからだ。

六次の隔たり(ろくじのへだたり、Six Degrees of Separations)とは、人は自分の知り合いを6人以上介すと世界中の人々と間接的な知り合いになれる、という統計学の法則である。

Wikipediaでも、のっけからこう書かれているが、実証されているわけではないので「法則」とまでは言えないんじゃないかと。以下の実験によって「証明された」なんて言ってしまっていいのか?(注:その後、Wikipedia日本版の記述は修正され、現在は「仮説」となっている)

ハーバード大学の心理学者のスタンレー・ミルグラム教授(Dr.Stanley Milgram)が1967年に実施した実験によって証明された。ミルグラムはネブラスカ州オマハの住人160人を無作為に選び、「同封した写真の人物はボストン在住の株式仲買人です。この顔と名前の人物をご存知でしたらその人の元へこの手紙をお送り下さい。この人を知らない場合は貴方の住所氏名を書き加えた上で、貴方の友人の中で知っていそうな人にこの手紙を送って下さい」という文面の手紙をそれぞれに送った。その結果42通(26.25%)が実際に届き、届くまでに経た人数は平均5.83人であった。因みにミルグラムは追試に失敗している。

手紙が届いた人の平均は約6人だったといっても、そもそも全体のうち7割以上の手紙は届かなかったのだから、どうみても「世界中の人が6人でつながっている」とは言えない。

「Wikipediaなんだから、自分で直せば?」と言われそうだが、どういじっていいのかわからない……。上記のGREEの例にもあるように、「世界中の人は6人でつながっている」という“考え方”(それが正しいかどうかはさておき)が広まっているのは本当だと思うからだ。

しかし、その根拠とされている実験をよく見ると、とてもそれを証明しているようには思えず、@ITによると、実験した学者自身もそんな主張はしていない。

……というのが私が今まで大ざっぱに理解していたことなんだけど、アメリカで行われた実験について、出典が明らかでない日本語の資料だけでものを言っても本当は意味がないわけで。

続き:英語の文献にもあたってみる

最初にhypothesis(仮説)であると断っているうえ、「still remains an open question.」と、その後の実験でも証明されていないと書いてある。

ミルグラムの実験については、Wikipedia日本語版よりもっと厳しい結果になっている。

Milgram's celebrated 1967 [1](pdf) refers to the fact that one of the letters in this initial experiment reached the recipient in just four days, but neglects to mention that only 5% of the letters successfully "connected" to their target.

手紙はたった5%しか届かず、しかもミルグラムはそのことを伏せていたという。(文中にリンクされているPDFは論文というより雑誌のエッセイのようだけど、未読)

こちらも見てみる。この項目は「This article or section is in need of attention from an expert on the subject.」ということで、専門家によって内容に疑義が呈されているらしいので、そのつもりで読む。

ここでは、ミルグラムの実験は

80% of the successfully delivered packages were delivered after four or fewer steps. Almost all the chains were less than six steps.

8割以上は4以下のステップで届き、6ステップ以下でほとんど全部が届いたと、非常に良い結果となっている。

しかし、これがアラスカ・フェアバンクス大学のJudith Kleinfield教授による『Could it be a big world?』によって批判された。

Connecting with people in six steps - BBC News』によると、届いた手紙は実際のところ5%程度だったことがわかったのは、Kleinfield教授の上記の調査によるという。Kleinfield教授は、「『六次の隔たり』は魅力的な考え方だけど、実際には人種や階級によって人間関係のかたまりがあるから、そんなに単純ではない」と言っている。

コロンビア大学のSmall World Projectでは、ミルグラムの実験とそれに対するKleinfield教授の批判を踏まえて、メールを使って同じ実験を試みている。

……というわけで、英語で調べたけれども、相変わらずネットだけで原典にはあたっていない。でも、WikipediaだけではなくBBCや大学の記事も見つかったし、『Could it be a big world?』をちゃんと読めば(まだ読めてない)、この件について今の時点での主な考え方は把握できそう。

Could it be a big world?』を(ざっとだけど)読んだ

上にも書いたように、「実際は『切れてしまうつながり』がかなり多く、ミルグラム実験は『六次の隔たり』をきちんと証明するものではない」ということのほかに、

  • 白人からはじめて白人につなげるネットワークの方が、白人からはじめて黒人につなげるよりもつながりやすい、という実験結果が出た。つまり「人種ごとの人間関係のかたまり」が存在する
  • ミルグラム実験に根拠はないが、「六次の隔たり」を信じたいと思う人間心理は興味深い
  • 手紙を使わずに電話を使って同様な実験をした人もいる(結果についてはよくわからない)

など。きっちり読んでないので見落としはありそう。

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#2リーディングス ネットワーク論

fairaさんのコメントで、ミルグラム実験の和訳が読めるということを知りました。

第1章 ノルウェーの一島内教区における階級と委員会……J.A.バーンズ(野沢慎司・立山徳子訳)
第2章 都市の家族──夫婦役割と社会的ネットワーク……エリザベス・ボット(野沢慎司訳)
第3章 小さな世界問題……スタンレー・ミルグラム(野沢慎司・大岡栄美訳)
第4章 弱い紐帯の強さ……マーク・S・グラノヴェター(大岡栄美訳)
第5章 コミュニティ問題──イースト・ヨーク住民の親密なネットワーク……バリー・ウェルマン(野沢慎司・立山徳子訳)
第6章 人的資本の形成における社会関係資本……ジェームズ・S・コールマン(金光淳訳)
第7章 社会関係資本をもたらすのは構造的隙間か ネットワーク閉鎖性か……ロナルド・S・バート(金光淳訳)

というわけで、第3章に載ってますね。ネットワーク関連の有名な論文が揃っているようなので、読んでみようかなー。

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#3 SNSで「六次の隔たり」の検証なるか

ミルグラム実験は60年代に行われたものだ。当時と違って、インターネット時代なら、この調査がもっと簡単にできそうだということはみんな考えつきそう。

上記にも書いたけど、コロンビア大学の実験では、手紙の代わりにメールを使う。でも、そのものずばりSNSを使った調査があれば一番いいのに、と思う。

mixiという幻想の共和国、そこは内ではなく外である - ガ島通信」経由で知ったのだけど、インターネットマガジン 2006年1月号に、「拡大するSNS、凝縮する世界 −科学で読み解くmixiのネットワーク構造−」という記事があり、

マイミクを6つたどればユーザー全体の96%に到達できる小さい世界であるとのことです(ちなみにマイミクの平均は20人で、4人以下のユーザーが40%いる)

とのこと(『ガ島通信』からの孫引き)。これが2005年末のmixiの状態だと思われるので、現在のmixiだとどうなっているか知りたいところ。

Tags: NetService Research | Bookmark:
本日のツッコミ(全6件) [ツッコミを読む]
# faira (2006-09-23 (Sat) 20:05)

ミルグラムの「小さな世界問題」論文は、現在では『リーディングス ネットワーク論』に初出版が収録されていて邦訳が読むことができますよ(初出版以外にもバージョンが複数存在するそうです)。<br><br>この本には、ミルグラムほどではないですが、ネットワーク論の一貫で、しばしば登場するグラノヴェター「弱い紐帯の強さ」も収録されいています。

# yuco (2006-09-24 (Sun) 02:46)

ありがとうございます。「弱い紐帯」も確かに有名ですよね。また読みたい本が増えてしまった…。この本、今年の8月に出たばかりなんですね。

# ゆきち (2006-09-24 (Sun) 05:33)

Wikipedia、全面改稿しちゃっていいっす(w

# ムムリク (2006-09-24 (Sun) 11:54)

以前なにかのテレビ番組の企画で、日本の芸能人の写真を見せて「この人と知り合いですか? もし知らなければ知っていそうなあなたの知人を紹介してください」といってたどり着くかどうかというのをやっていました。<br>その時はアフリカのとある村の人から始めたと思いましたが、10 人程度を介してたどりついたような。まあ、番組ということもあるでしょうけれど。(とはいえ 6 人というほど少なくないのは明白かもしれませんね)

# いがいが (2006-09-24 (Sun) 12:34)

it's a smallworld理論のおもしろいところは、<br>人間同士のネットワークだけではなくて自然科学やコンピュータサイエンスなど、<br>一見関係無い様々なネットワークの分野でこの考え方を適用しているところだと思っています。<br>その本質は「6次」という数字ではなくて、<br>たくさん他のノードとつながっているノードがあることにより、<br>その数が非常に少なくても、<br>少ないステップで全てのノードが結べる、ということだと思っています。

# yuco (2006-09-30 (Sat) 00:16)

http://marketing.mitsue.co.jp/archives/000111.html<br>>送った手紙の大半がちゃんと知人の元に届いたそうです。しかも、驚くほどの速さで。<br>>ほとんどの手紙は投函されてから6回前後で届きました。<br>典型的に誤解してる例。<br><br>http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%89%E7%8F%BE%E8%B1%A1<br>wikipediaでもこちらではかなり詳しく説明してあるんですね。<br>ここでの「ミルグラム実験」の後半部は、『Could it be a big world?』からの内容がかなり入っています。<br><br>>ムムリクさん<br>どの程度で「つながっている」とみなすか、またそのつながりを伝える方法(手紙か、電話か、メールかetc.)によってもかなり結果は違ってきてしまうみたいです。<br>しかしアフリカから日本の芸能人とはすごいですね。ミルグラム実験もアメリカ国内の話だったのに。<br><br>>いがいがさん<br>そうみたいですね。もともとは人間関係に限らない、と。数学とか統計学の世界の仮説だったみたいですね。

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