2004-06-30 (Wed) [長年日記]
#1 刈谷剛彦『大衆教育社会のゆくえ』(中公新書)
※今日のはちょっと自信がないです。というのは、下に書いたことは間違ってはいないと思うけど、この本全体をうまくまとめているか、というとそうは言い切れないような…。
本書は戦後日本の「教育論」論で、これをアメリカやイギリスと比較しながら語っている。
日本には、欧米にあるような上流階級の教養文化がなくて、できるだけ中立的・機械的になるように作られた学校文化&受験システムに勝った人がエリートになってゆく。これを本書では「大衆教育社会」と呼んでいる。
それによって、誰でも頑張れば良い成績が取れるはず、という考え方と、受験勉強なんて機械的な暗記物でくだらない、「真の実力」を表しているわけではない、という考え方の両方が生まれる。
また、習熟度別クラス分けは、現在の日本では「低いレベルに振り分けられた生徒に劣等感を与えるから」という理由で否定される。一方、アメリカ・イギリスでは、これらは否定されるとしても「今の教育システムは、ある特定の階級or人種のもつ文化向けにできている。だから習熟度別クラスは階級差別or人種差別だ」という理屈だ。
学歴社会に対する批判も、日本とイギリス&アメリカで、それぞれ上記とほとんど同じパターンである。
日本でも、戦後まもなく、貧しくて勉強をする時間がなかったり、上の学校に行くお金がない人が多くいた時代には、アメリカ・イギリスと似た理由(成績の悪い人は勉強する時間やお金がないのであって、決して頭が悪いわけではない)で階級と学歴について語られていたが、国全体が豊かになるにつれて、階級と学歴の話は忘れ去られていった。
結果として、いまの日本では教育を語るときに教育論のなかだけで話が完結していて、社会のしくみ(階層)に目が行かない。本当は、日本で一流大学に行く人も、欧米のそれと同じく階層が偏っているのに、日本人はそれに気づいていない。 一方、欧米では、入試に論文や口述試験があるなど、試験官の主観による要素が多く入っている。そのため、上流階級の文化のなかにいる人が高い学歴を得やすい、つまり、今の教育制度は生まれによる差別を含んでいるだろう、ということがコンセンサスになっている。
日本も今後、論文や面接など「個性重視型」の教育や試験をする方向に進むのだろうが、これはいまの欧米のように生まれによる差別をいっそう増やす可能性がある。そのことは分かっているのだろうか?という問題提起で終わる。
関連本
1995年に出版された本書はは教育と社会についての全般的な話なので、その一部だけとってもいろいろに展開できる。
たとえば、おもに学生文化論として
生まれの階層文化の違いを帳消しにするほどに、旧制高校をはじめとした学校での文化的な同化の力が強烈だった(p.117)
(戦後の)一部の偏差値ランクの高い大学がそこに特有の学生文化をつくりだしたといっても、それは大衆消費文化に簡単に飲み込まれてしまうほどの文化でしかなかった。(p.143)
というあたりは『教養主義の没落』(2003年)で、
本書で言っている「日本では受験の性質上目立たないけれども、階層間の再生産はちゃんと存在するよ」というあたり、
受験競争を勝ち抜いていくなかで、彼らが学歴エリートに特有の優越感をもつようになることは、否定しがたい。しかし、そのような優越感は、かならずしも階層文化に支えられた「選良」としての社会的責任感(ノブレス・オブリージュ)に連なるものとはいえない。受験競争をくぐり抜けたことで育まれる優越感は、個人的・利己的なものであっても、階層分化の紐帯によってむすびつけられた、ひとつの社会集団としての集団意識とは異なると考えられるのである。(p.151注)
という話は『不平等社会日本』(2002年)で、それぞれ大きなテーマだ。
で、この3冊ってぜんぶ中公新書なんですよね。担当編集者も同じ人だったりするのかなぁ。


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読む本がかぶってますね。私はいま久しぶりにこのテーマに戻り「新卒無業」を読んでいます。なんかこのあたりの本は沢山読みすぎたらしく、半ばまで読んだにも関わらず、この本を読んだことあるのかないのか分からずにいます。やはり「仕事の中の曖昧な不安」と「不平等社会日本」あたりが白眉でしょうか。ちょっと外れると「成果主義と人事評価」と「セーフティネットの政治経済学」あたりもよかったです。
「新卒無業」はわたしも持ってるけど、ちゃんと全部読み通してはいないかも。「活躍する若者の例」みたいなところに知っている人が少し出てきたのが個人的にはおもしろかったのだけど。<br><br>「不平等社会日本」には批判もあるみたいですね。<br>http://www.yuco.net/memo/index.rb#a1087787788<br>批判内容については私はまだ検証していないのだけど。