diary.yuco.net

※このブログは更新を停止しました。現在はblog.yuco.netにて更新しています。

1998|12|
1999|01|02|03|04|05|10|11|12|
2000|01|02|04|05|09|10|11|12|
2001|01|02|03|06|07|08|09|10|11|12|
2002|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2003|01|02|03|04|05|06|
2004|05|06|07|08|09|10|11|12|
2005|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2006|01|02|03|04|05|06|07|08|09|10|11|12|
2007|01|02|03|04|05|06|
2008|02|03|04|05|09|
トップ «前の日記(2004-06-19 (Sat)) 最新 次の日記(2004-06-21 (Mon))» 編集

2004-06-20 (Sun) [長年日記]

#1 原武史『大正天皇』(朝日選書)

戦後初めての「大正天皇」をテーマにした単行本でそうだ。今まで、明治・昭和両天皇の研究の豊富さに比べて、大正天皇に関する研究はほとんどされてこなかったという。

あとがきでは、大正天皇の人生についてこう要約している。

 側室の子として生まれ、肉親からまともな愛情を受けないまま、病気を繰り返した幼少期。有栖川宮というこの上ない理解者を得て全国を回り、健康が回復するとともに、自由奔放な振る舞いを見せた皇太子時代。そして明治天皇の「遺産」という重圧と闘いながら、次第に病状を悪化させていった天皇時代――

オビには『「遠眼鏡事件」は真実か?』とある。私は知らなかったが、「遠眼鏡事件」は、大正天皇が、国会で読み終わった詔書を丸めて望遠鏡のようにして周りを見ていた、というエピソードだ。脳障害のせいで奇妙な行動を取っていたことの例として、ある年齢以上の人なら「必ず思い出す逸話(p.5)」で、一般的な大正天皇のイメージとして広まっているようだ。

本書ではこの事件について、現在残っている証言の食い違いが大きいことなどを理由に、「果たしてこの事件が本当にあったのかという疑念を抱かせるに充分なものである」とした。そして、そのようなイメージをくつがえすような、元気で快活であった皇太子時代〜即位後まもなくまでの大正天皇の行動を中心に描いていく。


大正天皇は、幼少の頃は病弱だったが、結婚と、教育の一環として始まった地方視察をきっかけにずいぶん健康になっていた。また性格としては、家族を大事にして自分の子とよく遊び、全国に出かけて地元の人と打ち合わせなしでフランクに会話することを好んだ。自分の身分のせいで人々が恐縮するのを、むしろいやがっていた。

地方巡啓*1中のエピソードとして、マツタケ狩りに行ったが、妙によく取れすぎる、とヤラセを見抜いて関係者を慌てさせたとか、旧友宅を訪ね、「今日は恐惶だなどは一切よせよ、お前は学校に居る時、俺と鬼ごっこの相手でないか…」などと話し、長居しすぎて予定されていた軍事演習の見学に遅刻したことなどが紹介されている。

韓国を含む全国各地への巡啓を好んだ大正天皇だが、巡啓先では、これをきっかけに道路の舗装や電灯が整備された。カメラにも興味があったらしい大正天皇は、写真嫌いな明治天皇とは対照的に、気軽に新聞社に写真を撮らせ、メディアを通じて皇室の具体的な姿を伝えることになった。これらによって、江戸時代の藩による支配ではなく、全国の日本人はみな日本という国家のもとにあるのだ、という意識を強化した。それが当時の政治家の意図であったが、大正天皇本人がそれを意識していたかどうかはわからない。

大正天皇は、儀式ばったことや政治が苦手だった。しかし、天皇の役割といえばまず儀式と政治である。しかも、強いイメージで富国強兵など日本の近代化を進めた明治天皇のあとだ。比較的自由な行動が許された皇太子時代と比べて、天皇になってからは一気に負担が増し、それが体調にひびいていった。はっきりと書かれているわけではないが、この人は天皇を辞めたかったのではないだろうか。元気だった皇太子時代の振る舞いを見ても、一般人であったほうが幸せだっただろうに、と思える。大正末期には公式行事への参加もできなくなり、のちの昭和天皇が摂政として代理を務めていた。

昭和天皇は、祖父である明治天皇を模範とする教育を受け、天皇になってからもそのように振る舞い、公的な場でもたびたび尊敬の念を表現していた一方、父の大正天皇についてほとんど語っていないそうだ。

*1 皇太子が各地を視察すること。天皇なら「巡幸」

Tags: Book | Bookmark:
本日のツッコミ(全3件) [ツッコミを読む]
# kayakaya (2004-06-21 (Mon) 02:16)

原武史さんの著作はお薦めです。近代日本政治思想史のホープですね。

# yuco (2004-06-21 (Mon) 18:13)

私は原武史さんの著作は、まだこれ一冊しか読んでいないんですよ。この本でも大正天皇の移動記録を細かく記述していますが、「お召し列車」についての本も書かれてるらしいですね。

# kayakaya (2004-06-21 (Mon) 21:13)

原さんは鉄道に詳しいというか、鉄道好きみたいです(^^)。鉄道そのもの本も書かれていますけれど、民鉄と官営鉄道のことを取り上げた本も出されています。

本日のTrackBacks(全1件) []
# PukiWiki/TrackBack 0.1:原武史 (2005-05-29 (Sun) 23:59)

原武史 † 【はら たけし】 東京都渋谷区生まれ 1962- 原武史 『〈出雲〉という思想 近代日本の抹殺された神々』 『「民都」大阪対「帝都」東京 思想としての関西私鉄』 『大正天皇』 『鉄道ひとつばなし』 『対論 昭和天皇』 はてな 近代天皇...






RSS feed meter for http://diary.yuco.net/